さよなら、I川さん。二度と会えないと知った日。
I川さんは、椙本が今働いている職場で副ボスをしていた人だ。
作業用の上着に細い体、陽に灼けた顔、白髪頭で、
腰からなぜか、いつもてぬぐいを下げていた。
椙本がきた最初の1年が、彼にとって定年最後の年だった。
職場の庭に、野菜をたくさん植えてくれて、収穫のシーズンには
きゅうりやなす、トマトがバケツに入って事務所におかれていた。
ある日、ミーティングテーブルにいた椙本の隣の席に、
I川さんが座り、テーブルの上にあった新聞を読み出した。
そして、ぽつりといった。
「小泉さんがこうやくを果たすっていうから、
わたしも…ほら。」

ズボンの裾をまくりあげ、膝小僧を椙本に見せた。
膝小僧には湿布が貼られていた。
「足、痛めたんですか?」
「…まあ」
いそいそと、ズボンの裾をただした。
なんだろう。何か関係あるのだろうか。
I川さんが帰ったあと、そのやりとりを見ていた上司が言った。
「椙本さん、さっきのジョーク、わかった?」
「はい?」
「やっぱり…」
そのやりとりの様子を、立ち会わせていなかった人たちに
上司が説明した。その説明をきいた人たちは、笑った。
「??」
「こうやくをかけたんだって」
「公約?湿布と何か関係があるんですか?」
「湿布のこと、膏薬って言うんだって」
「!!知らなかったです!」
翌日、上司に連れられて副ボスI川さんの机に向かった。
不思議そうな顔をしているI川さん。上司は、
「すみません。昨日、椙本さんにおっしゃっていた
こう薬の件ですが、そのことがわからなかったみたいで…」
顔を真っ赤にしたI川さん。
その場で終わらせたい、ちょっとしたギャグを
翌日「わかりませんでした。」と頭を下げられたら…
さぞかし、恥ずかしかっただろう。
その後、職場の20代の人(といっても3人くらい)
には膏薬が通じないことがわかった。

6日の朝、出勤したら職場の人が呆然とした顔で言った。
「I川さん、なくなったって」
ちょうど、人が死ぬ夢を見て、ブルーな気分での出勤だった。
鳥肌がたった。
畑仕事をしていて、倒れてそのまま、
意識を取り戻すことなく息を引き取ったそうだ。
I川さんが退職して、わずか2年。
職場の庭を眺めた。
退職後も何度か、畑に苗を植えに足を運んでいたそうだ。
ズッキーニの苗がいつの間にか植わっていて、驚いたっけ。
花壇には、I川さんが退職記念に植えいった、
ラベンダーの花が今もひっそりと風に揺れている。
作業用の上着に細い体、陽に灼けた顔、白髪頭で、
腰からなぜか、いつもてぬぐいを下げていた。
椙本がきた最初の1年が、彼にとって定年最後の年だった。
職場の庭に、野菜をたくさん植えてくれて、収穫のシーズンには
きゅうりやなす、トマトがバケツに入って事務所におかれていた。
ある日、ミーティングテーブルにいた椙本の隣の席に、
I川さんが座り、テーブルの上にあった新聞を読み出した。
そして、ぽつりといった。
「小泉さんがこうやくを果たすっていうから、
わたしも…ほら。」

ズボンの裾をまくりあげ、膝小僧を椙本に見せた。
膝小僧には湿布が貼られていた。
「足、痛めたんですか?」
「…まあ」
いそいそと、ズボンの裾をただした。
なんだろう。何か関係あるのだろうか。
I川さんが帰ったあと、そのやりとりを見ていた上司が言った。
「椙本さん、さっきのジョーク、わかった?」
「はい?」
「やっぱり…」
そのやりとりの様子を、立ち会わせていなかった人たちに
上司が説明した。その説明をきいた人たちは、笑った。
「??」
「こうやくをかけたんだって」
「公約?湿布と何か関係があるんですか?」
「湿布のこと、膏薬って言うんだって」
「!!知らなかったです!」
翌日、上司に連れられて副ボスI川さんの机に向かった。
不思議そうな顔をしているI川さん。上司は、
「すみません。昨日、椙本さんにおっしゃっていた
こう薬の件ですが、そのことがわからなかったみたいで…」
顔を真っ赤にしたI川さん。
その場で終わらせたい、ちょっとしたギャグを
翌日「わかりませんでした。」と頭を下げられたら…
さぞかし、恥ずかしかっただろう。
その後、職場の20代の人(といっても3人くらい)
には膏薬が通じないことがわかった。

6日の朝、出勤したら職場の人が呆然とした顔で言った。
「I川さん、なくなったって」
ちょうど、人が死ぬ夢を見て、ブルーな気分での出勤だった。
鳥肌がたった。
畑仕事をしていて、倒れてそのまま、
意識を取り戻すことなく息を引き取ったそうだ。
I川さんが退職して、わずか2年。
職場の庭を眺めた。
退職後も何度か、畑に苗を植えに足を運んでいたそうだ。
ズッキーニの苗がいつの間にか植わっていて、驚いたっけ。
花壇には、I川さんが退職記念に植えいった、
ラベンダーの花が今もひっそりと風に揺れている。



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